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ヨーロッパ恋愛紀行
恋愛心理学小説
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プラハ嬢ソニア①
プラハの玄関口であるホレソビッツェ駅は、ウィーンから到着した客でごった返していた。ほとんどが外国からの旅行者のようだった。僕はその人混みを分け、ひとりで出口に向かった。
最初のミッションは3時半までにホテルにチェックインすることだった。第一の女性ソニアとはそこで待ち合わせていたのだ。あと30分しかない。せっかくの初対面なのだから遅刻はしたくない。僕は電車で行くことを諦め、悪名高いプラハのタクシーに乗ることにした。
タクシー乗り場にはプラハらしく旧ソ連を感じさせるクラシックな車が並んでいた。どうやらそれがタクシーらしい。僕が歩いていくと、そこにたまっている男達が寄ってきて、どこまで行くのか聞いてきた。なまりのきつい英語だ。ホテル名を言うと、「さあ乗れ」 と言って荷物を奪い取り、トランクに放り込んでしまった。僕はしょうがなく車に乗ってみたが、思った通りメーターなどない。この状態で走り出したら法外な値段を請求されるに決まってる。僕はドアを開けたまま、「いくらなのか先に教えろ」と言った。するとその運転手はラミネートした1枚の表を出してきた。そこには行き先のエリア別の料金が載っていて、僕のホテルまでは800Kということだった。3000円程だ。これはどう考えても高すぎる。電車で一緒だったイギリス人夫妻が教えてくれた目安の倍だった。シロート観光客でもあるまいし、こんなせこいビジネスに乗ってやる気はない。こういうときの断り方は意思をはっきり告げることだ。 「高すぎる。降ろせ。荷物返せ!」 と英語でどなった。するとあっさりトランクを開けて荷物を返してくれた。するとすぐ次の男たちが寄ってきて今度は600Kだと言ってきた。「もっと安くしろ」 と言ってみたら、そいつはどこかへ行ってしまった。そうするとまた他の男が来てまた600Kだと言ってきた。500Kにしろと言ったら、それは無理だと言って歩き去ろうとしたので、まあここが最低ラインかと思い諦めて商談OKにした。
後からレートを調べたがやはりこれでも高すぎたようだった。でもプラハの女の子に文句を言ってみたら、「タクシーなんか乗るからよ」 と一蹴されてしまった。プラハ人は頭がよいから、もちろんこんな悪名高いタクシーなんかに乗らないのだ。

holesovice
プラハのホレソビッツェ駅

ホテルに着いたのは待ち合わせの3時半ちょうどだった。フロントにまだソニアらしい女性は見当たらない。僕はとりあえず部屋に入り、すぐに彼女の携帯に電話してみた。入れ違いでもう下に来ているかもしれないと思った。
「ごめんなさい。まだなの。急用ができちゃって・・・これからすぐ行くね」
なんとまだ家にいるようだった。まったく何てことだ。いきなり初日からこれだ。タクシーにぼられてまで急いで来ることはなかったのだ。
「どれくらいで来れそう?」 もちろん僕は動揺など見せないで聞いてみた。
「そうね、え~っと、40分くらいかしら・・・」
ということは4時半にはなってしまう。でも待つ以外にどうしようもなかった。
電話を切り、ホテルの窓から外を眺めた。14階から一望できるプラハの街は深い霧に覆われていた。彼女が来る頃にはすっかり暗くなってしまいそうだ。これでは夕日に照らされたプラハ城を一緒に歩いて口説くという当初の予定は諦めるしかなさそうだ。
それに彼女の話し方からすると、本当にあと40分で来るかどうかもあやしいものだった。待ち合わせ時間にまだ家にいたくらいだから、彼女の言うことはあまりあてにはできない。そういえば旧コミュニズムの国の女が時間にいいかげんだと言う話をどこかで聞いたのを思い出した。
僕はホテルで待ち合わせたことを後悔した。今回のように初対面の女性に次々と会っていく旅は、相手の女性たちにできるだけ警戒心をなくさせなければならない。だから最初の待ち合わせ場所はもっと慎重に選ぶべきだった。自分のホテルは避けたほうがよかっただろう。遅れたときなどはホテルは確かに便利だが、心理的にこちらのテリトリー作用が強すぎて、相手に必要以上のプレッシャーを与えてしまう恐れがある。ホテルに呼ばれたコールガールなんてイメージを持たれたらますます来にくくなるだろう。
でもここまで来てしまったらしょうがない。僕はプラハについたばかりだし、ソニアは今夜しか空いてないのだ。とにかくメールのときの彼女を信じて、遅くなってもいいから気長に待とうと思った。

待つと言ってもただボーっとしているわけではない。僕はソニアを待つ40分の間に、2人目の女性イリーナと3人目の女性アンドレアに電話することにした。イリーナは問題なかったが、アンドレアは「ホテルに一緒に泊まってもいいよ」 なんてリスキーなメールをして以来、反応が悪くなっていたのだ。アンドレアに会うまでまだ4日あったが、そろそろ電話で確認を取ったほうがよい。彼女の気が変わったら途中3日間が開いてしまうのだ。その場合、その開いた日程でルーマニアのレナに会いに行くように計画変更しなければならない。まあそれも悪くないが。

2人とも電話で話すのは初めてだったが、問題なく約束の場所と時間を確認できた。やっぱり遠くから来たということで、彼女たちも気を使っているのだろうか。それにしても電話で相手の意思を聞くとホッとする。でもそれ以上に良かったのはアンドレアの声だった。彼女は予想通りまじめそうでかわいい声をしていた。しっとりして落ち着いた声で、カリフォルニアの女の子には絶対に真似できなそうな、喉からきれいに抜けるハーモニックな声だった。こういう魅力的な女性は僕の気分をリフレッシュする。ついでにその日のソニアに対するやる気も断然アップした。良い兆候だった。

そろそろ40分経った。ソニアの来る時間だ。心配だからもう一度電話してみる。
「ごめんなさい。まだ遠くにいるのよ」 あいかわらずささやくような声で彼女は言った。
さすがの僕も一瞬沈黙・・・。しかしすぐに何でもなかったように言葉を続けた。ここでは明るく話す以外に方法はないのだ。
「今どこにいるの?」
「ちょっと・・あなたの知らないところよ」
「ふ~ん。ここまで来れる?」
「うん・・・まだちょっと遠いけど・・」
「ならね、僕がそっちの方に行ってもいいよ」
「本当?その方がいいと思う」 
やっぱりこっちのこと警戒しているのかもしれない。
「じゃどこに行こうか?」
「そうねぇ、どこなら・・・」
ここでいきなり電話がきれた。携帯電話だからしょうがないだろう。
僕はホテルの部屋にいたからこっちからかけ直すしかなかった。
「なんかさ・・・」
「ごめんなさい。バッテリーがないの。じゃあ私が・・・・」
「ソニア?・・Sooooonjaaa!!!」
「・・・・・・・・」
これはかなりやばい状態だ。バッテリーなくなったら本当に会えなくなってしまう。
やはり僕の計画は甘かったのかもしれない。メールのやりとりにもう少し時間をかけるべきだったかもしれない。少し反省。でもここまで来てしまったからには、ここでできる範囲内で最善を尽くすのみなのだ。
僕は次が最後のつもりで、1分ほど待ってからかけてみた。あと1回くらいは話せるだろう。
「で、どうする?」 僕は落ち着いた声で言った。
「ごめん、1405号室だっけ・・・・」
それで電話は切れた。その後はチェコ語でメッセージが聞こえるだけだ。『電波のとどかない場所にいるか・・・』 とでも言っているのだろう。
さて困った。彼女はここに来ると言いたかったのか?最後の会話はそんな感じだったが、本当にそのつもりなのかは信用できない。部屋でひとりで待つのにも飽きた。それにその日は朝からあまり食べてなかったから、とにかく外に出かけたかった。
初日からこんな目に遭うとはまったくの予想外だ。ソニアはメールでのノリがいちばん良かったからトップに持ってきたというのもある。その彼女でいきなり失敗なんてことになったら今後の予定も考え直す必要がある。とりあえず気分直しに今日は街中の女の子たちをつかまえに行くしかないかもしれない。でもソニアがここに来る可能性も残されている。ホテル名と部屋番号は言ってあるのだ。さあ困った・・・。そう思ってベッドに寝ころんで10分もしないうちに部屋の電話が鳴った。
「今、着いたわ。フロントのところよ」

続く・・・






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テーマ:東欧 - ジャンル:海外情報

プラハ嬢ソニア②
僕の姿を見て立ち上がったソニアはプロフィール通り180センチ近くありそうだった。かなりスレンダーだが、これだけ背が高いと細さはかえって迫力になる。グリーンがかった淡いグレーの瞳でじっとこっちを見ていた。思っていたよりずっときれいだ。僕は視線をそらさずにスマイルを返した。すると彼女のその冷たい瞳は僕に同調するようにゆっくりと微笑んだ。はにかむようなスマイルだ。それはプロフィールの写真なんかよりずっとかわいい。
「ごめんなさい。わたし・・・」 握手しながらソニアはいきなり謝った。やはり思った通りかなり緊張してたらしい。もちろんそんな彼女に僕は文句など言うはずもない。彼女とはその日しか一緒にいられないのだ。その短い時間で彼女に少しでも近づき理解しあうことが僕の目標だった。
僕は、何でもないよ、という意味でもう一度彼女に向かってスマイルを見せた。「じゃあ行こう!」
僕はソニアの方に体を向けたまま横に軽く一歩ずれて、彼女をリードするように歩き出した。とはいってももちろん、ホテルの部屋の『中』にではなく、『外』にである。
彼女のななめ前に立ってホテルのエントランスを開けた。スラブ系の整った顔を見てると僕の足取りは自然にエスコートモードになる。彼女はそんな僕のリードにきちんと合わせるようにホテルを出た。そして彼女が乗ってきた地下鉄の駅まで並んで歩いて行った。
それにしてもきれいな横顔だった。これだけ美しいからこそプロフィールに変わった写真を載せたのかも知れないと思った。一緒に歩きながら、僕は何度も黙って見とれてしまった。それは見たことのないタイプの美しさだった。写真にはなかなか撮れない種類のものだろう。最初、彼女のモデルのようなすらりとした長身のせいかと思った。タイトなセーターがつくる女性らしいラインのせいかと思った。あるいは色彩の薄いグレーの瞳のせいかとも思った。いずれにしても彼女に一目惚れしたことは確実だ。断然やる気が出てくる。
「背高いよね」 僕は彼女の長身に感動した振りをして、大胆に彼女の身体を眺めながら言った。
「あなただって大きいでしょ。・・・日本人としては」
彼女にとっての日本人というのは昔の映画のイメージなのだろうか。
「日本人としてはそうかも知れないけどさ・・・」
「私だってチェコなら普通よりちょっと高いだけよ」
ここらへんまではおきまりの会話だった。メールではもっと深い話をしていたが、まだ実際にお互いを前にして話すのは初めてのため、こういう簡単な会話が必要だった。初対面でこのような会話を進行させるのは断然、男の役目だ。特に国の違う女性と最初に話す状況では、お互いの発音に慣れる意味もある。僕はソニアのチェコなまりの英語を注意深く聞いた。子音を強調した高周波帯の多い発音だ。僕は少しだけそれを真似するようにしてしゃべった。彼女にとってその方が聞きやすいはずだ。アメリカ人が英語をカタカナのように発音してくれると日本人にとってわかりやすいのと同じようなものだ。お互いの英語をすべてクリアーにするのはコミュニケーションの基本である。それができてようやく次のステップに入れる。
「それにしても、写真で見るより全然きれいだよ」
僕にとって、さっきから思っていたことをそのまま口にしただけだった。自分の本当の気持ちが伝わるように、彼女のきれいな瞳を十分に見つめてから言った。本心からのことばだけあって、きれいに彼女に伝わるはずだった。
「・・・・・・」
彼女のことばが途絶えた。予想外の反応に僕は戸惑った。そうだここは東欧の国チェコなんだ。前日までいたスペインのようにはいかないのだ。しっかり頭を切り換えなければならないと思った。
こういう場合、彼女は警戒してるのか、それとも単にはずかしがってるのか見極めなければならない。
「あの写真はどこで撮ったの?」 
とにかく彼女に何かしゃべらせるために話題を変えてみた。プロフィールにあった写真について聞いた。プロフィールに載せる写真は本人のお気に入りのはずだから、会話が途絶えたときには積極的に話題に出す。
「・・・ん、あれはね、ニューヨークよ」 ソニアは少しほっとした感じで言った。「あれ、わたしが一番好きな写真なの」
「あの写真も良かったけど、実物はもっときれいだよ」 
すかさず第二弾。ありふれたパターンだが、世界のどこいっても通用する緩急をつけたアプローチだ。何といっても嘘じゃないから、僕の口からは自然にこういうことばが出てくる。それを無理に押さえ込むことはないのだ。
僕はこう言ってから、歩いている彼女との距離をちょっとだけ開けた。警戒心を解き、プレッシャーを和らげるためだ。そしてしばらくそのまま黙って歩く。彼女と同じスピードで。彼女の真横からちょっとだけ下がったポジションを保つ。
しかしいつまでたってもソニアは反応しなかった。自分から沈黙を破るタイプではないようだ。何となく旧ソ連の女性を彷彿させる。女はおとなしく黙って男に従う・・・。そんな感覚がまだ共産党の支配から十数年しか経っていないチェコに多かれ少なかれ残っているかもしれない。そう思いながら静かに歩く彼女の横顔をそっと見てみた。おとなしい表情で少しうつむきかげんに歩いている。さっきからの僕のことばがまだ頭の中で反響しているはずだ。
僕はそっと声をかけた。「駅はまだ?」
彼女は顔を上げてこっちをまっすぐ見た。そして自然な笑顔を見せながら答えた。「もうすぐよ」
それまで見せた中でいちばん嬉しそうな笑顔だった。初対面のガードはなくなり、心からの感情表現にあふれていた。そんなスマイルを見られただけでここまでやってきたかいがあるというものだ。

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僕たちは地下鉄に乗ってプラハ中心の繁華街に行った。プラハの便利なところは、繁華街から歩いていける距離にほとんどの観光スポットがあるということだ。現地の女の子と歩くにはちょうど良い。普通、現地の人は繁華街には詳しくても観光地のことはそれほど詳しく知らないことが多いのだ。東京の人が東京タワーのことあまり知らないのと同じように。
もっとも、その日の僕には観光スポットなどどうでもよかった。もう日が暮れかけていたし、それにまだ初日だったからだ。歴史的な場所より、地元の人が普段よく行くような場所に行きたかった。プラハの女の子たちが集まる場所を見ておくのも悪くない。
プラハ繁華街の大通りにはちょっとした歴史を感じさせる建物が多いが、中に入っているものはファーストフードやカフェ、ブティック、銀行など世界のどこに行っても見られるものばかりだ。ソニアは楽しそうにその一つひとつを説明しながら歩いていく。「ここがマックで、ここがアメックスのサービスセンターよ・・」 といった感じだ。どこまで冗談なのかよくわからない。
「・・・で、あれはわたしのお気に入りのアイスクリームショップよ」 ソニアはとても楽しそうに話を続けている。
「じゃ入ろうか?」 ちょうど休憩しても良い頃だったし、何といっても彼女のお薦めの場所なのだ。そして、こんなときには忘れずに軽いプレッシャーを与える。ガイドが長引くときの基本だ。プレッシャーと言っても、もちろん彼女が十分こなせる程度のものだが。
「ここおいしいんだろうね?」
「うん、わたしは好きなんだけど。でもあなたに合うかしら・・・」
あいかわらず控えめである。とは言っても彼女は嬉しそうにさっさと中に入っていった。

そのアイスクリームショップは予想に反してあまりおしゃれとは言えなかった。テーブルは不安定でさっきからガタガタしてるし、壁のところどころははがれ落ちている。それにやたらと明るい白色蛍光灯がショウケースに入ったアイスクリームを鮮やかな色に照らしている。そのけばけばしさは、アメリカのオールドファッションのアイスクリームショップを思い出させた。唯一の違いは、店員のチェコおばさん達のファッションで、アメリカみたいなミニスカートではなかった。
「なかなか良い店だよね」 とりあえずこう言ってみた。
「でしょ?ここよく来るのよ!」 本気で受け取ったようで彼女は楽しそうに言った。まあ、それがなによりである。
それにしてもデザートを食べてるときの女の子の顔は世界中どこ行っても同じに見える。そしてどの女の子もデザートを食べると饒舌になってくる。まるで甘いものが女の子のおしゃべりエナジーのようだ。
そういうときはどんどんしゃべらせた方がいい。特に初対面の場合は。幸いにも彼女の英語はほとんどネイティブ並のスピードだったから僕はしばらく聞き手に回ることにした。
ソニアは大学2年生で、英語と一般言語学を専攻している。英語は得意でしゃべるのがやたらと速いが、語彙の量はさほど多くない。ちょうど一般的な日本人大学生と正反対だ。チェコ語のアクセントがあるが基本的にはアメリカ英語を話していた。聞いてみると、やっぱりプリンストンに留学していたらしい。

「わたし日本人と話すのは初めてよ」 彼女は急にそんなことを言いだした。「でも日本にはちょっと興味があったの」
「どうして?」
プラハでは日本に関する情報はほとんどない。せいぜい団体でぞろぞろ歩く日本人観光客を見るくらいで、良いイメージなど期待できたものじゃない。
「プリンストンのアメリカ人の友達が日本のアニメいっぱい持ってたのよ。その人は自分のことオタクだって言ってたわ」
ソニアは本当にotakuと言った。
そのオタクなアメリカ人から日本のアニメやゲームについていろいろ聞かされていたようだった。もちろんポジティブな話をだ。
西側にあこがれる東ヨーロッパ人にとって、アメリカでウケてるものに興味を持つのは当然のことだ。たまたま彼女の友達がオタクだったから日本に対して『良い』印象があったらしい。僕に興味を持ったきっかけにもなったようだ。
日本のアニメやゲームが欧米に輸出されたおかげで日本のイメージは昔に比べて確実に良くなっている。特に女性に。昔からあるサムライやニンジャは女性にあまりウケなかったが、アニメなら欧米女性のファンは結構いる。そしてマッチ系サイトでも、大学でも、パーティでも、僕が日本人だと言うとアニメについて聞いてくる女の子がいる。そういう意味で日本人男性は世界に広がった日本アニメおかげで得をしていると言えるかもしれない。そして僕は当然そんな彼女たちを失望させないだけのアニメの知識を備えていた。すっかり準備の整った感じでそろそろ次の行動に出るときだった。

続く・・・


テーマ:国際恋愛 - ジャンル:恋愛

プラハ嬢ソニア③
女性の口説き方というのは人によっていろいろ説があるだろうが、その作戦は恋愛心理学理論によると二種類に分けられる。一つは感情先行型で、女の感情に火をつけてその勢いで持っていく。ラテン系女はこの方法で口説かれるのが好きだ。一般に時間をかけずに女を口説ける男はこの方法を上手く使っていると言えよう。もう一つは理性先行型で、この男だったら私にふさわしいのよ、と理屈で女に受け入れられるように持っていく。これは保守的な女やインテリの女を口説くにはかなり重視しなければならないポイントで、相手の考えてること、育った環境や文化を早々にして理解しなければならない。
もっともどの女性に対しても、この両面を使って攻めていくわけだが、常にそのバランスを考えなければならない。特にチェコの女性は保守的であって、感情先行型とはとても言えない。こういう場合は彼女に『僕のことが魅力的である』という理由を明確に顕わしてあげなければならない。彼女にとって僕は、日本人であり、大学院生であり、そして北米在住の西側の考え方をする男ということになっている。ということはアメリカ留学経験のある彼女にしれみれば、チェコの男と違って僕は自由で進んだ考え方を共有できる相手であり、また彼女のアメリカ人の友達をオタク化するほどの文化の発信国であるから、アメリカ人とつき合うよりクールであるとも言えよう。それに西側の有名大学にいるということで、僕のことかなりのインテリだと思っている。元共産主義のチェコらしく権威、とくに西側の権威には弱かったりもする。そして彼女のプロフィールの『求める男性タイプ』にあった、「たばこを吸わずに」「リベラル」というところはきちっと押さえている。そこで根本的な問題は、僕は日本人、あるいは非白人だということだ。これは別に問題にならないと言っておきながら、やはりほとんど白人社会のチェコでは無意識的な大問題である。プラハでは旅行者以外の東洋人はほんのたまに見かけるが、聞くところによるとカンボジア人らしく、彼らは彼らで独立したコミュニティーをつくっている。つまりプラハの女の子達は全然そういったアジア系は全然眼中にはしないのだ。
その障害を越えるにはそれなりのやり方が必要なのだ。もっともメールで僕の写真も見せてるし、彼女自身は僕が日本人であることを認めてはいる。だから最後の一線を越えるのはもう1つプッシュが必要なだけなのだ。
アイスクリーム屋ではソニアがチェコ人らしくないというのを強調するような流れで話を聞き出した。外国人の男とつき合うのに必要な理由は、自分はただのチェコの女とは違うというのをはっきりと自覚させる必要がある。チェコの人間の不満を話させて、彼女は一般のチェコ女よりもずっとリベラルでセンスがあって頭が良い。より西側に近い。そしてそこには僕がいる、といった感じだ。
「だからソニアはチェコの男では物足りないかもね」
僕は彼女のことばにこう付け加えた。

僕たちは店を出て、おきまりのモルダウ川のほとりを一緒に歩いた。河の対岸にはプラハ城がきれいにライトアップされている。彼女にとっては見慣れた光景に違いないが、口説かれながらそこを歩くことには慣れていないようだ。感情先行型で迫るにはとても良い状況であった。
ソニアのことばにタイミング合わせ、そっと彼女の手を取った。そして手をつないだまま歩く。しばらく歩く。プラハの歴史とそこに生きる人々について、美しい街とそこに住むソニアの美しさについて僕の心理学的解釈を話した。つないだ手が暖かくしっとりしてくるが、ときどき掌の隙間を通る涼しい風が気持ちよかった。そうして手をつないだまま僕たちは繁華街に戻った。

ディナーにはソニアの友達も呼んであるようだった。「断っても良いけどどうする?」 と聞かれてちょっと迷った。もちろん最初は二人で食べるつもりでいたが、初日だったしソニアの友達にも興味あったから一緒に食べることにした。
僕がメールで頼んでおいた通り、ちゃんとチェコ料理のおいしいところを探してくれていたようだった。目立たないビルの地下にあるそのレストランは、外から見ると映画館のように見えた。建物自体はかなり古そうだが内装はとてもきれいで、白い壁に高そうな調度品が揃ったホテルのカフェのようなレストランだった。
そこで待っていたのは、ピーターという30歳くらいに見えるアメリカ人男性と、マリアというソニアと同年代の、見るからにチェコって感じの女の子だった。もちろん全員英語を話す。そういう理由もあってアメリカ式の握手だけのあいさつで席についた。
ピーターはカリフォルニア出身で、もう2年もプラハで英語教師をしているということだ。彼のように英語を教えに来ているアメリカ人はプラハには多いらしい。というのもチェコは十数年前の民主革命以来、英語教育にかなり力を入れているようで、公立学校はもちろん塾のような英語学校もかなりあるらしい。この点は日本と似ている。
マリアはソニアのクラスメートだと思っていたがそうではなく、ソニアの幼なじみで今は旅行関係の仕事をしているということだ。いずれにしても英語は上手い。どこで英語を習ったかと訊くと、「もちろん学校よ」 と当然のことのように答えた。学校で英語を教え始める学年はチェコでも年々早くなってきているらしいが、彼女が習い始めたのは日本とほとんど同じで12歳のときらしい。それで大学生になればこれくらい話せて当然ということらしい。ほとんどつっかえることもなく気持ちよさそうにしゃべる。日本とはずいぶん違う。チェコ語と英語の違いは日本語と英語の違いくらいかけ離れているはずなのに、なぜこれほどの差が出てしまうのだろうか。まあ日本の公立の中高校の場合、なかなかネイティブの先生がいないから、これくらいの差があっても当然かもしれない。
ディナーはチェコ料理としてダンプリングを取ってくれる予定だったようだが、たまたま切れていたようで結局ポークカツレツにした。これもチェコ料理ということらしい。これは思った以上にいけたが、量がかなりあってとても食べきれそうにない。それに女の子2人は、自分たちのオーダーした種類の違うフライドチーズをそれぞれ半分くらい切って僕のプレートに乗せてくれるものだから全部食べるのを諦めるしかなかった。
ピーターご推薦のビールも飲んで300円くらい。これがプラハのリッチなディナーの相場らしい。観光客が群がるエリアのレストランならそれの倍以上するみたいだ。まあそうだろうと思った。だってその倍したところで、イギリス人・ドイツ人観光客は高いなどと思うはずはないのだ。

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ソニア(左)とマリア.撮影はピーター.


ソニアがトイレに行ったすきに、僕達のことをどこまで知っているのかピーターに聞いてみた。出会いの旅をしているとなぜか男同士では連帯感がわく。僕がマッチ系サイトでソニアと知り合ったことは知っていたようだった。奴はにやにやしながらそれについて話したそうにしていたが、ソニアが戻ってきたので諦めたようだった。でも次の日にはソニアはプラハ郊外の大学に行ってしまうし、僕には予定がなかったので、ピーターとランチを一緒にする約束をして僕とソニアはレストランを出た。
しばらく観光街を一緒に歩いた。さっきと同じように手をつないでゆっくりと歩いた。プラハの街はまだ観光客でごった返していた。それに合わせるようにあちこちでコンサートが行われる。当日のプログラムを書いたビラを道ばたで配っていた。日本のティッシュ配りみたいだが、配りながら英語・ドイツ語・イタリア語でしっかり勧誘する。ヴィヴァルディ・バッハ・モーツアルトの室内楽が多い。それに怪しげなピンクビラを配っている男もいるし、ミニスカートをはいた女もいて彼女たちは何も持たずにときどき男に声をかけていた。ちょっと興味あったが、残念ながら女の子と歩いている僕には話しかけてくれない。
それにしてもプラハではミニスカートの女性が多い。アメリカ人と比べてずっとセクシーに着こなしてるからときどき娼婦と見分けがつかなくなる。日本のファッションとある意味似ている。もっともソニアに言わせれば、服を着る前はパリジェンヌと変わらなくきれいだが服を着ると全然及ばないのがチェコ女だと言われているらしい。でも僕に言わせると、安っぽい服を着たプラハ女は素朴でかわいくて、服を脱げばすらっとしたボディでフランス女なんかよりずっときれいだと思ったが、その時点でそんなことを彼女に言えるはずもなかった。

コンサートにも興味あったが、その夜限りのソニアと行く気にはなれなかった。それに2人目のイリーナとコンサートに行くことになっていたのだ。
僕たちは観光街の歴史的な建物の間を手をつないで歩いた。ときどき立ち止まってキスをした。立ち止まる場所を決めるのはいつも僕だが、いったん目を合わせると彼女のほうが積極的になった。レストランの客引きのおやじが唖然とした顔で見ていく。僕が東洋人だということと、どう見ても素人にしか見えない現地の女を連れているということと、街で堂々とキスをしているということ3つすべてに納得がいかない顔でこっちを見ていた。ネオナチのような異人種カップル殺人がある場所では注意しなければならないが、プラハならその心配はない。とはいっても遠慮なくじろじろ見られるてばかりいると、僕のほうがちょっと気が滅入ってしまう。
でもそれ以上にびっくりさせることをソニアは言い始めた。
「わたしね、ヘンタイアニメ見たのよ」
英語でHentaiと言うのは日本の18禁アニメのことだ。日本人の何でもあり的な性欲創作が集結されているもので、海外は特にハードな婬獣系が人気である。日本ではもちろん一部のマニアだけが見ているが、欧米のアニメコーナーがあるビデオショップではだいたいこの婬獣系が置いてある。とは言っても、もちろんプラハにはそんなものはない。どうやら彼女はそれをアメリカで見たようだった。
「どうだった?」
「ちょっとびっくりしたわ」 彼女は僕の眼をじっと見つめながら言った。「でも、日本人ってどうやってああいうのを考えつくのかしら?」
それまでになく彼女の眼は輝いていた。どうやらこのことをずっと話したかったようだった。
もちろんそこから日本のサブカル系へ話題をもっていけば興味深い話が広がるだろうが、残念ながら一晩限りの僕たちにはそんな話をしている余裕はなかった。
僕は黙ってソニアのきれいな瞳を少しの間だけ見つめた。そして、ふと思いついたように言った。「これからホテルのバーに行ってみない?」
「・・・・・」
「今日はいろいろ案内してくれたから飲み物おごらせてよ。もう寒くなってきたし」
そういえばディナーをおごる約束だったのに、彼女は自分の分をさっさと払ってしまったのだ。
「・・・うん。いいわよ。じゃ行きましょ」 そう言うと彼女は先に歩き出した。「地下鉄はこっちよ」
こういう場合はタクシーだろうと思ったが、彼女はタクシーは嫌いだと言った。「ちゃんと地下鉄で行けるのに何であんな高いものに乗らなきゃならないのよ?」
彼女が嫌いだと言うものに便利だからといって無理に乗せるほど僕は傲慢な男ではない。スターバックスやマックがプラハに来るのをあまり歓迎したくないチェコ女ソニアのグローバル経済へのささやかな抵抗に僕もつき合った。僕達は手をつないだままゆっくり、そして仲良く地下鉄の駅まで歩いた。そしてもと来たようにホテルに戻った。

朝帰りはまずいということで、結局ソニアはその夜遅くに帰った。次の日の昼までに大学の街まで戻らなくてはならなかったからだ。ホテルの入り口まで見送った僕に、ソニアは最後までその街まで来てほしいと言っていた。
「電車のスケジュールが合えばね」 僕はそう答えていたが、他の予定がキャンセルにならない限りもう彼女に会うことはなさそうだった。それをごまかすように僕は彼女にそっと最後のキスをした。
そんな僕の気持ちを感じ取ったのか、それともあまりにもあっさりと過ぎた時間にまだ動揺していたのか、彼女は上目遣いに色の薄いグレーの瞳で僕をちらっと見ただけで、すっかり寒くなったプラハの夜景に溶け込むように行ってしまった。ずっとホテルにいたにもかかわらず、彼女の唇は最後まで冷たかった。

プラハ1日目おわり


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